ねえ、二人で塔に登ろうよ。ぼくのお父さんは、静かに死を待つ身なんだ。本人が気取りをこめて言っていたよ。おれは病魔にむしばまれ、もはや、余命いくばくもない。あとはただ、静かに死を待つ身なのだ、とね。
 まったく、本を読みすぎた報いだよ。死の直前まで凝った言い回しをするんだから。ぼくなら絶対、死ぬときに複雑な言葉なんて発しない。ギャーッ! グエーッ! そんな断末魔とともに、死んでみたいものだ。それは、コロコロコミックの死にかただ。あるいは、ボカーン! 爆発音とともに死ぬのだ。特撮番組の怪人は、みな、爆発によって死んでいった。幼少期の記憶にのこる怪人たちの死にざまが、今も理想の一形態として存在しているよ。
 さあ、行こう。手を取りあって、二人で家出をするんだ。下着と毛布をかばんに入れて、夜は路上で眠るのだ。きっと、薄汚れた衣服を誇りに思う子どもになるだろう。さようなら、ぼくの家よ、病床の父よ!

上田啓太

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